お釣りを5万円受け取ったら逮捕されたでござる

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おはようございます。京野トピオです。
とてもいい気候になってきましたが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。
梅雨になる前で、比較的夜が涼しい時期が私はとても好きです。

さて、今日は2015年5月23日にあったこんな事件についてのうんちくです。

レッツゴー・ウンチキスト!

コンビニのお釣りで約5万円を受け取った女性が逮捕

事件は5月23日に起きました。
宮城県石巻市の女性が、コンビニの支払いの時に多いお釣りをもらって、そのまま持ち去ったら、「詐欺」の疑いで、宮城県警に逮捕されたということです。

「本来よりも多くのお釣りを受け取ったと気づきながらそのまま持ち去った」

というのが逮捕理由なんですよね。

具体的には、コンビニのレジで、女性は携帯電話の料金を支払いました。
その際に、本来であれば3000円程度の釣り銭のはずだったのに、コンビニの店員が間違って約4万8千円を渡してしまったと。

女性は金額が間違っていると気づきながら、渡されたお金を持ち帰った疑いということなんですよね。

ここまでの報道をみて私は「え?どうして」と思ったんですが、詳しく調べたら経緯は下記です。

携帯電話料金はおよそ10万2000円だった
女性はおよそ10万5000円を支払った。

なので、本来お釣りは3000円程度ですよね。
なのに、店員は誤って「105,000円を150,000円」と打ち込んでしまった。

つまり45,000円多く打ち込んでしまったがために、45,000円お釣りを多く渡してしまった。まぁ、ここまでは完全に店員の責任ですよね。
それなのに、お客さんが詐欺罪になると…。

どうして犯罪になるのか?

詐欺罪にあたるということですけど、詐欺罪とはどういうものなのでしょうか。

条文を見てみましょう。

刑法246条 詐欺罪

1.人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2.前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

この刑法246条の第2項に該当する、ということなのです。
法律家の間では「二項詐欺」と言われます。

今回のケースでは、まずお客は「お釣りが多すぎます」とお店に伝えなければならないと。それは「信義誠実の原則(しんぎせいじつのげんそく)」、略して「信義則」という民法上の義務です。

信義誠実の原則(しんぎせいじつのげんそく)とは、当該具体的事情のもとで、相互に相手方の信頼を裏切らないよう行動すべきであるという法原則をいう。「信義則」(しんぎそく)と略されることが多い。日本では、信義誠実の原則は、明文上は、民法1条2項に規定されている(昭和22年法律第222号により追加された)。

条文
日本民法第1条2項
権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

こういう信義則があるにも関わらず、店員のミスに乗じてそのままお釣りを受け取り、立ち去った場合は「詐欺」にあたるということなんですよね。

実際、こんなケースではどうなるのか

【ケース1】
でも、世の中には内気な人っていますよね。

私の知り合いに、とにかく「話すことがニガテ」という人がいます。
なので「あれ、お釣りが少ない!」と思っても、「『少ないです』なんて怖くて言えない」そうです。
だから、仕方がなく、そのまま受け取るというんですよね。

この人は多く受け取ったとしてもきっと「多すぎます」なんて言えないでしょうね。
そうすると逮捕されてしまう…ガクブル…

多くお釣りを渡したのは、100%店員の責任であるにも関わらず、客は「多すぎますよ」といわなければならないという義務を追うってことですね。その壁を乗り越えられない人もいるんじゃないのかなぁ。

というわけで、この場合は詐欺罪になると。

【ケース2】
では、お釣りを多く渡されたのに、きちんと確認せず、そのままお財布にしまってしまい、気づかなかった場合には?

その場合は、詐欺罪は成立しません。

刑法には「故意」であることが求められます。(過失罪の規定があるものは除く)
つまり「わざとやった」ということが法的に罰せられるべき、という考え方なのですね。

これを「故意責任の原則」といいます。

普通は犯罪をしようとしたとき、自分の中の規範とぶつかり「やっちゃいけないよね」と考えますよね。

それを「反対動機を形成する」といいます。
反対動機を形成できたにもかかわらず、あえてそれを乗り越えてしまった、ということがいけないことなのだと。

つまり、その「やっちゃいけないとわかったのに、乗り越えたでしょ?だからいけないんだよ」という考え方です。

「反規範的な行為態様」こそが罰すべきだ、という考え方なのですね。

じゃぁ、どうして今回逮捕されたの?

今回の女性は「気づかなかった」と言っています。

気づかないと本人が言っている以上、立証責任は検事側にあります。
裁判になったとしたら、女性が無罪になる可能性もあります。

もっとも、本人しか本当の心のなかはわからないので、「こうしている、ということはこれを気づいていたはずだ」などとして認定していくものなのですよね。
つまり、「気づいてなかった」にもかかわらず、「気づいていた」と裁判所に認定されることもありうる、ということです。

今回のケースで言えば、お釣りとして48,000円を受け取ったことがポイントだと弁護士は言っていました。

お釣りで1万円を超えることは通常ないので、「1万円札を4枚も渡されてその場で気づかないことなどあるか!」と認定したということなのでしょうけど、でもさぁ、コンビニの店員側でもそれはいえるよねぇ…「1万円札を4枚渡すなど、おかしいと気づかないのか?」と同じことを言い返したいなぁ…仕事をしているという緊張感のある中で間違って渡すことがある以上、気の張っていない受け取り側は気づかないこともあると思うけどな…。

それにしても、今回の逮捕劇は、携帯電話の料金支払いという、個人情報を含む内容が店側に残ったために足が付きましたよね。

これが、もし現金による商品の購入とかだったら、犯人を特定することは難しかったと思われます。

一抹の不合理感

それにしても、積極的に働いたものでもなく、受動的なことで犯罪者になってしまうというのはやっぱりどうにも少し不合理感があります。皆さんはどうでしょうか?

不作為の作為みたいなことですよね。

この女性本当に気づかなかったのならば、裁判までしてほしいです。

まぁ、実際は起訴されない可能性もあるでしょうし、起訴されても執行猶予がつくのは間違いないでしょうから、金をかけてまで裁判をやるか、という感じではありましょうが。

今日はコンビニで5万円多く受け取った女性の事件から、刑法246条第2項の二項詐欺についてうんちくでした。

2 Comments

うわらば

携帯電話のコンビニ払い込み用紙はバーコードが印刷されており、店員が手打ちで金額を入力するというのはありえません。(バーコードか無い払込票はコンビニでは取り扱えない)
この話かなり眉唾ですね。ソースはどこでしょうか。

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京野トピオ

昔の記事にコメントありがとうございます。

支払い金額は印刷されていますよね。
受け取った金額を店員が手打ちするという意味でしょう。

この話は2年ほど前(2015年)の話で、ニュースサイトからは消えていますが、当時はそこそこ話題になっていました。
例えば、弁護ドットコムでも同様の事件を取り上げ、記事にされていました。

弁護士ドットコム:コンビニで「約5万円」のお釣りを受け取り逮捕――気づかなくても「犯罪」になるの?
https://www.bengo4.com/other/n_3164/

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